いくら好奇心があっても、あるいは、大事だとわかっていても、なかなか実行に踏み出せないことありますよね。
たとえば、「スカイダイビングがしたい!」と思っても、「でも時間がないな~」「もっとお金があったらな~」「事故とか起きたら…」なんて考えてしまって行動できない。
また、親や先生の立場であれば、「子供に自信を身につけさせてたくさん挑戦してもらいたい!」と思っている。
これらの原因は、自己効力感が十分でない状態であるからといえます。
今回は、心理学の観点から自己効力感について解説し、そして、自己効力感を高める方法を紹介します。
自己効力感とは
カナダの心理学者のアルバート・バンデューラによると、人間は、ある行動がどのような結果を導くかに関する予期(結果予期)だけでなく、ある行動が自分にどのくらいできそうかという予期(効力予期)をおこなって、行動を起こすと考えました。
自己効力感とは、ある行動が自分にどのくらいできそうかという予期を認知すること、つまり効力予期の認知です。
簡単にいうと、つまりは、自信です!
「自分にはできる!」という考え方の度合いと思ってください。
自己効力感は、マグニチュード(大きさ)、強さ、一般性という3つの次元でとらえ、考えることができます。
たとえば、やや無気力な状態になっているある大学生の「大学に行く」という行動を考えてみます。
一口に「大学に行く」という行動といってもいろいろなレベルがあります。
この学生にとって「昼から生協の店舗に行く」が一番やさしい行動であり、「1時間目から厳しいC先生のドイツ語の授業に出席する」が一番困難な行動となっています。
このように、行動するのがやさしいものから、困難なものまで順に並べたときに、どこまでできそうかを判断する場合、その度合いを「マグニチュード(大きさ)」といいます。
また、それぞれのマグニチュードを持った各行動について、どれくらいできそうか判断する場合、その度合いを「強さ」といいます。
マグニチュード | 強さ(%) | |
---|---|---|
1 | 昼から生協の店舗に行く。 | 90 |
2 | 昼からサークル棟に行く。 | 80 |
3 | 3時間目から優しいA先生の教育学の授業に出席する。 | 60 |
4 | 2時間目から自分の得意な心理学の授業に出席する。 | 40 |
5 | 1時間目からやや優しいB先生の英語の授業に出席する。 | 30 |
6 | 1時間目から厳しいC先生のドイツ語の授業に出席する。 | 10 |
上の表でいうと、たとえばマグニチュード6の行動は「10」(できる予測が10%)の強さしか持っていません。
また、「大学に行く」という行動への自己効力感が高まったり低まったりすると、それが「アルバイトをする」「ボランティアをする」などという他の領域の行動の自己効力感にも影響を与えることがあります。
このような、他の行動への般化の度合いを「一般性」といいます。
なお、さらに多くの領域に当てはまる、いわばパーソナリティとしての自己効力感を、一般性自己効力感として扱うことがあります。
自己効力感は何によって変化させられるのか
バンデューラは自己効力感の情報源として、遂行行動の達成(実際にやってみること)、モデリング(他者の行動を観察すること)、言語的説得(言語的に説得を受けること)、整理的喚起(自分がリラックスしているかどうかを感じること)をあげています。
特に、「遂行行動の達成」は重要ですが、それにはステップが必要であり、また見通しをもてる目標の設定が大事になります。
バンデューラとシャンクは、算数の苦手な小学生に対し、42ページの問題集を、7回のセッションを設定して勉強させるという実験を行いました。
その際に、「1セッションにつき6ページ解く」という目標を立てて勉強したグループが、「7セッションで42ページ解く」という目標を立てて勉強したグループや、目標を立てなかったグループに比べて、自己効力感、学業成績が高まりました。
長期的で漠然とした目標ではなく、小さい目標を立てることの有効性が示されたといえます。
自己効力感を測る方法
自己効力感は目に見えにくいものです。しかし自己効力感を測る尺度があれば可視化することができます。
自分自身の自己効力感が高いのか低いのかを客観的に知ることは、今後、新しいことに挑戦する際に、自身のモチベーションをコントロールするのに役立つことでしょう。
一般性セルフエフィカシー尺度
一般性セルフ・エフィカシー尺度は、1986年に坂野雄二氏と東條光彦氏によって開発された自己効力感を測定するために尺度です。その内容としては、「行動の積極性」「失敗に対する不安」「能力の社会的位置づけ」という3つのカテゴリーに関して全16種の質問をするというアンケート形式の測定法です。すべての質問に対して「はい」か「いいえ」で回答してもらい、自己効力感を測定します。
全16種の質問に対して、1,3,5,6,13~16に「はい」と答える人は自己効力感が高い傾向にあり、2,4,7~12に「はい」と答える人は自己効力感が低い傾向にあります。
自己効力感を高める方法
自己効力感を高めるには5つのポイントがあります。
具体的にどのようにすれば自己効力感が高めていくことができるのかを説明します。
成功体験を積む
自己効力感を育てるために最も重要な要素です。自分自身で何かを達成する、成功するといった経験は、一番強い自己効力感を得ることができます。
目標設定が高すぎると、自分が理想とする成功まで達することが難しくなります。達成できない目標設定は、自己効力感を上げるどころか下げてしまいます。
目標を高く掲げすぎがちな人は、自分の性格を理解し、目標を途中で修正することが重要です。
目標が高すぎると気づいた場合、小さな成功を積み重ねるスモールステップを取り入れるようにします。いきなり大きな目標に挑むのではなく、小さな成功体験を積み『自分はできる』という気持ちを自分自身に刷り込みます。
小さな成功を繰り返すことで、いずれ自分が理想とする成功に達することができるでしょう。
自分と似た状態の誰かの成功体験を見聞きし「自分にもできそうだ」と思う
自分がやろうとしていることと同じことを、他の人が実行して成功を治めたという事実を見聞きすることで「自分にも出来るのではないか」という自信を生み出し、自己効力感を高める方法です。
自分が達成したいことをすでにやり遂げた人で、今の自分に状況が近い人を探します。大事なことは、自分に近い人を見つけることです。大成功をおさめた“○○企業の社長”や“世界的に有名な人の話”ではあまりにも自分からかけ離れているので、対象とはしません。
同期や同じ部署、社内といった、身近な存在の成功体験を見たり聞いたりしましょう。身近な人の行動をしっかりと観察するモデリングを行うことにより、自分が目標を達成するための方法を見つけることが可能になります。
自分自身の成功体験は自己効力感を高める過程において絶対に欠かせないものです。同じように、身近な人の成功を観察することも、自分の課題に対する対処方法を見つけることに役立ち『自分はできる』という自己効力感へと繋がるのです。
「自分には能力がある」と言ってもらう。言葉にすることで思い込む
周りからの励ましや評価によって自己効力感を高める方法です。
励ましや評価を与えてくれる相手は、必ずしもその課題に対する有識者である必要なく、同僚やプロジェクトチームのメンバーなどの声掛けも効果があることが認められています。
まったくの他人からの声掛けには大きな効果を期待できませんが、自分が信頼を置いている相手であればあるほど高い影響力と効果を与えてくれます。
周りからの励ましや評価を価値あるものにしていくためには、自分への評価を素直に受け入れる心構えが重要です。上司など自分より上の立場からの評価を強く意識する人もいれば、上の立場の人間からの言葉を一切遮断して受け付けない人も存在します。同僚からの意見に一切耳を傾けない人もいるでしょう。
この方法で自己効力感を高めようとするなら、周囲との信頼関係を築くことが大切です。自分自身の良いところを知り、自分にも褒められるべき部分がたくさんあるということを知ることも大切です。
体調や気分を整える
精神的に落ち着いてリラックス状態である自分自身を認識することによって安心感を覚え、自己効力感に対してプラスの影響を与える方法です。人は想像以上にメンタル面に大きく影響を受けてしまう生き物であり、それは時に大きな商談の結果さえも左右させてしまうことになります。
感情のコントロールならまだしも、生理的反応のコントロールを行うのは非常に難しく、これは、ビジネスとは全く異なる専門分野の話です。
すぐに導入できる対策方法としては、生活習慣を見直すことが挙げられます。自律神経に大きな負担を与えてしまう寝不足や過労などを解消することにより、自分自身にとっての心配要素を取り除き、結果として、より悪い状況になる可能性を減らします。
成功するイメージを持つ
成功体験を想像することによって自己効力感を高める方法です。
自分の成功体験を想像するということは、自己暗示や思い込みという行為です。強い思い込みは、時に、精神だけでなく身体へも影響することが“プラシーボ効果”としても知られています。
成功体験を想像し、その想像に臨場感があれば自然に行動へと促されます。未来の自分が何を成し遂げてどんな結果を得るのか、成功した時の状況や気持ちをリアルに思い描くことは自己効力感を高めることに大きく貢献するでしょう。
できることから一つずつ自己効力感を高めましょう!
自己効力感が高い人は「できそうだ」「自分ならやれる」と考えています。
反対に、自己効力感が低い人は、「自分はきっとうまくできない」「どうせまた失敗する」と考えています。
あなたが自信をなくしていたり、自信をつけたいと考えているなら、一つ一つできることから実践してみてはいかがでしょうか?